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岐阜地方裁判所 平成9年(わ)160号 判決 1997年8月25日

本籍

岐阜県関市寺田一丁目一番

住居

岐阜県関市寺田一丁目一番一号

土木工事業

奥田忍

昭和一〇年一月一一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官水岸真由美、弁護人建守徹各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金一六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岐阜県関市寺田一丁目一番一号に居住し、同所において、「奥田電設」の名称で土木工事業を営むほか、「奥田商店」の名称で食料品、雑貨、煙草等の小売業を営むものであるが、過少な所得金額を計上していわゆる「つまみ申告」を行う方法により自己の所得税を免れようと企て、

第一  平成四年分の実際の総所得金額が三七八〇万七七六四円であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、同市川間町二番地所在の所轄関税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が二七八万八〇〇〇円であり、これに対する所得税額が一七万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一四四九万五五〇〇円と右申告税額との差額一四三二万〇三〇〇円を免れた。

第二  平成五年分の実際の総所得金額が六八一四万九二七〇円であったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記関税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が二三八万一九二一円であり、これに対する所得税額が一四万四五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二九六四万二〇〇〇円と右申告税額との差額二九四九万七五〇〇円を免れた。

第三  平成六年分の実際の総所得金額が六〇二九万三〇八六円であったにもかかわらず、平成七年三月一五日、前記関税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が二六五万九七四〇円であり、これに対する所得税額が一五万四二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三七〇万三五〇〇円と右申告税額との差額二三五四万九三〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カード(検察官請求分)の証拠番号である。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙一ないし四)

一  被告人作成の上申書(甲二七、二八)

一  奥田百合子の検察官に対する供述調書(甲三〇)

一  今井弘三の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲三一、三二)

一  奥田百合子作成の上申書(甲二九)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(甲四ないし二四、二六)及び写真撮影報告書(甲三三、三四)

判示第一の事実について

一  関税務署長作成の証明書(甲一)

判示第二の事実について

一  関税務署長作成の証明書(甲二)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(甲二五)

判示第三の事実について

一  関税務署長作成の証明書(甲三)

(法令の適用)

※以下の「刑法」は、平成七年法律第九一号による改正前のものである。

一  罰条 判示各所為について、いずれも所得税法二三八条一項、二項(情状による)

二  刑種の選択 判示各罪について、いずれも懲役刑と罰金刑を併科

三  併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑について、刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

罰金刑について、刑法四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)

四  労役場留置 刑法一八条

五  刑の執行猶予 懲役刑について、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、高圧線鉄塔工事業等を営む被告人が、平成四年分から平成六年分までの自己の所得税合計六七三六万円余りをほ脱したという虚偽過少申告ほ脱犯の事案であるが、右のとおりほ脱額は少ないものではなく、ほ脱率も通算で約九九・三パーセントと極めて高率に達している。被告人は、自分が苦労をしたときに援助をしてくれなかった国に納税するよりも夫婦の老後や子供らのために財産を蓄えようと考え、事業所得については、申告所得金額が二〇〇万円から三〇〇万円になるように収支を適当に計算したメモを税理士に渡してつまみ申告をし、不動産所得については申告をしていなかったものであって、動機に格別酌量すべき事情はなく、犯情は悪質である。加えて、この種事犯は、租税負担の公平を損ない、誠実に申告納税をしている国民の納税意欲を著しく阻害するものであり、一般予防の必要性が高いことを考慮すると、被告人の刑事責任は軽視できないところである。

しかしながら、被告人は、本件調査終了後に本件起訴に係る三年分について修正申告をし、所得税の本税及び附帯税のほか地方税も完納していること、被告人は本件を反省して事実関係を明らかにしていること、被告人にはかなり以前の罰金前科以外に前科がないことなどの酌むべき事情も存するので、これらを総合考慮し、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処した上、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年二月及び罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 中里智美)

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